今、なぜ、日本教科教育学会か

1.今、教育改革の必要性を否定する人はほとんどいないと言ってよいでしょう。教育の基本理念や目的、教育全体のシステム、その中での学校教育の意義・役割・位置づけ、教育課程の構造と各教科の位置づけ、教育方法の転換など、教育の全体が問い直され、改革の対象になってきています。何を、どのような方向に向けて、どう改革すべきかについては、さまざまな意見があり、教科教育研究者の皆様も、それぞれご自分のご意見をお持ちのことと存じます。最近は、大学や学会のみならず、経済団体や国民の間からも「学力の低下」を憂える声が次第に大きくなってきています。
 しかしながら、それらのさまざまな意見は、確かな科学的調査・研究に裏付けられたものとは、必ずしも言えないのではないでしょうか。今必要なのは、この「確かな科学的調査・研究」であろうと存じます。
  ところが、教科教育に限ってみても、研究者の多くは各教科に分かれていて、相互に交流することも共同することもほとんどないのが実態です。これでは、上記のような課題に応える科学的調査・研究を進めることは困難です。各教科の研究者・実践者が連携して共同の研究を進めるためには、すでに成立している日本教科教育学会を、このような研究が可能な学会に発展させることが近道であろうと存じます。

2.各教科の研究を交流してみると、研究の原理や方法の面で、意外なほど共通している点があり、啓発し合うところが少なくありません。例えば、構成主義は算数・数学教育だけではなく、他の教科にも広く見られますし、ナラトジー(物語論)も、歴史教育や国語教育などに共通している新しい考え方で、授業研究の方法論としては、さらに広く見られるようになってきています。認知科学的な方法を用いた研究も盛んになってきました。また、他教科の研究に示唆を受けて、新たな研究を切り開いていく場合もあります。各教科の研究は、交流することが可能ですし、相互に啓発し合うところが少なくありません。日本教科教育学会は、そういう場としても機能してきましたが、この機能を一層発揮するためには、日本教科教育学会の会員を拡大し、交流の共同の場を広げていく必要があります。今は、まさにその時であろうと考えます。

3.国公立大学では、経常経費が年々下がり、科学的な研究を進めるためには科学研究費(科研費)の支給を受けなければならない状況にあります。私立大学においても、少子化により経営が困難になってきていて、やはり科研費を受けなければ研究が困難な状況になってきています。科研費の支給を受けるためには、申請した研究課題の価値がわかり、正当に評価できる審査員がいなくてはなりません。審査員の推薦母体は学会です。正当な審査ができる審査員が出せるようにするためにも、日本教科教育学会を大きくし、研究を活性化する必要があります。

4.大学院が次々に設置され、教科教育を研究対象とする院生及び修了生も多くなりました。これら若手の研究者・実践者が、次代を担っていきます。これら若手の研究者・実践者には、広い視野をもって、その視野の中に自己の研究テーマを位置づけて研究を進めていただくことが重要です。日本教科教育学会は、そういう研究を推進するためにも重要な役割をもっていると考えています。

5.日本教科教育学会の中には、世界カリキュラム学会と連携して活動を進めてきた会員がいらっしゃり、その関係で世界カリキュラム学会とも任意提携してきました。今後、こうした実績をもとに、研究の国際交流をさらに発展させたいと願っています。そのためにも、この方面で活躍できる会員の学会加入を求めています。


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